2024年VW雇用危機とIGメタル(2)

岩佐 卓也(専修大学)

クーペのイラスト(車)2.労使交渉とストライキ

 VWの提案に対してIGメタルは猛反発した。IGメタル組合員であり、VW本社従業員代表委員会(Gesamtbetriebsrat、本社6工場を管轄)委員長ダニエラ・カヴァロは、この危機は電気自動車などのモデル開発を怠ってきた経営者がみずから招いたものであり、工場閉鎖は認められないものであると強く非難した。

 VWの労使においては2024年10月末から企業協約の改定交渉が行われる予定であった。しかし新事態の発生にともない、これを繰り上げて交渉が行われることになった。IGメタルは工場閉鎖・解雇の阻止と、7%の賃上げを要求した。
 9月25日第1回交渉が行われたが、しかし労使はそれぞれの立場を示すにとどまった。IGメタルは工場閉鎖・解雇をともなわない将来コンセプトと7%の賃上げを要求したのに対し、VWは、状況は深刻であるとして企業を再構築する必要を強調した。
 10月30日の第2回交渉に先立ってVWは、少なくとも3工場を閉鎖する計画を発表した。ただし具体的な工場名は挙げず、従業員に不安が広がった。これと軌を一にするように、10月28日大衆紙Sternは「VWパーティは終わり」と題する意見記事を掲載した。贅沢な暮らしの例えとして「脂肪分のなかのウジ虫」という表現がドイツ語にあるが、過剰な賃金、手当、雇用保障を享受してきたVW従業員を同紙はそのように形容した。それゆえ、この状態が崩壊することは不可避である、と。

IGメタル交渉団長トロステン・グレーガー(左)とVW本社従業員代表委員会委員長ダニエラ・カヴァロ(右)

 第2回交渉において、さらにVWは3工場閉鎖とは別の10%の賃下げ提案を示した。これをIGメタルが受け入れれば、本社6工場の立地が保障される。この提案によって、たしかに生産能力の削減はできないがもう一つの目標である労働コストの引き下げを実現できる。VWは「競争力のため従業員の貢献が必要」であり、「財務目標が解決してはじめて立地雇用保障の展望が議論できる」と述べ、IGメタルに揺さぶりをかけた。
 第2回交渉までIGメタルは譲歩の姿勢を示さなかったが、しかし11月21日の第3回交渉を前に変化が生じる。IGメタルは、交渉に先立ってVW従業員代表委員会と共同で「将来プラン」を提示した。これは大幅な譲歩を含むものであった。すなわち、7%賃上げ要求を撤回し、2025年と2026年の2年間金属・電気部門横断的労働協約による賃上げ5.1%に相当する賃金を基金に積み立て、この基金を用いて労働時間短縮にともなう賃下げを補填する、というものであった。この方法によって工場閉鎖・解雇を回避して生産能力を削減し、かつ労働コストを引き下げる。
 11月30日には労働協約上の平和義務が終了しその後はストライキを合法的に実行できる。その期日を前にした11月21日の第3回交渉において、IGメタルは、ここでVWが「将来プラン」を受け入れ合意しなければエスカレーションに至ることになり、今回が「最後のチャンス」であると迫った。しかしVWは、IGメタルの譲歩を歓迎しプランを精査するとしつつも、合意には踏み切らなかった。
 11月30日に平和義務が終了した。日曜日の12月1日を挟み、IGメタルは、12月2日に警告ストをオスナブリュックを除く9工場において2時間の警告ストを実施した。傘下人数はIGメタルの発表によると98650人であった。
 12月9日には第4回交渉が行われ、同時に再度4時間の警告ストが実施された。ストライキ集会でIGメタル委員長クリスティアーネ・ベナーは「魚は頭から腐る!」とVW経営陣を痛罵した。なおも合意は成立しなかった。争議が年を超え長時間におよぶストライキに発展する可能性も出てきた。(3につづく)