日独労働法協会国際シンポジウムについて

橋本陽子(学習院大学教授/日独労働法協会事務局長)

   2025年10月10日(金)~10月12日(日)に、日独労働法協会のシンポジウムが日本で開催される。会場は、学習院大学と熊本学園大学である。
   日本で開催されるのは2019年9月以来であり、多くのドイツ人研究者・裁判官が来日する予定である。日本では6年ぶりであるが、ドイツでは、コロナ禍が収束してから、2022年9月にデュッセルドルフとワイマールで、2023年9月にベルリンで、2024年3月にミュンヘンで、2025年3月にはウィーンで、日本人研究者が参加したシンポジウムが開催されてきた(日独労働法協会の姉妹団体である独日労働法協会の主催ではなく、共催のシンポジウムも含まれる)。
 かつては、4年ごとに日本とドイツで交互に国際シンポジウムを開催するという申し合わせがあったそうであるが、現在は開催できるときに開催するという運用に変わっている。近時ドイツで頻繁に開催され、私もドイツで開催された上記のシンポジウムの多くに参加させていただいたので、今年、日本で開催するのは絶好のタイミングであろう。

 今回のシンポジウムの統一テーマは「変化する雇用社会の課題―日独労働法の共通点と相違点―」である。
 あまりぱっとしないテーマになってしまったが、これは、個々の報告のテーマを基本的に報告者の希望で決めたため、それらを統合するテーマを後から考えたためである。具体的なテーマは、労働時間、プラットフォーム労働、事業移転(事業譲渡)、事業所年金、合意解約の撤回および疾病時の賃金継続支給である。
 いずれも日本とドイツの法規制は共通点よりも相違点の方が多いように思われるが、労働時間や合意解約の撤回に関するドイツの議論状況は、最近、日本との興味深い類似性も見せている。具体的な法規制は異なっていても、日本とドイツは法体系の類似性と直面する問題の共通性から、常に有意義な比較が行われてきた。このことは今回のシンポジウムでも確認されるであろう。

 報告者は、ハンス・ハーナウ(Hans Hanau)教授(ハンブルグ連邦軍大学)リューディガー・クラウゼ(Rüdiger Krause)教授(ゲッティンゲン大学)マルティン・フランツェン(Martin Franzen)教授(ミュンヘン大学)フランツ・ヨーゼフ・デュヴェル(Franz Josef Düwell)教授(元連邦労働裁判所裁判官、独日労働法協会会長)カーステン・ハーゼ(Karsten Haase)弁護士(独日労働法協会事務局長)セバスチャン・ロロフ(Sebastian Roloff)裁判官(連邦労働裁判所)ベッティーナ・ブーバッハ(Bettina Bubach)裁判官(連邦労働裁判所)およびリヒャルト・フィーツェ(Richard Vietze)裁判官(ベルリン労働裁判所)である。ご報告はされないが、ブルクハルト・ベムケ(Burkhard Boemke)教授(ライプチヒ大学)も参加される。
 連邦労働裁判所の裁判官が2名来日されるのは特筆すべきことであろう。ロロフ裁判官は、2024年3月にミュンヘンでお会いしたときに、日本の裁判所に交流を希望する旨の手紙を出されたとおっしゃっていたが、どうも音沙汰がなかったようである。大変残念である。日本の裁判所もドイツのように開かれた存在であってほしいと思う。

 日本側では、荒木尚志先生(中央労働委員会会長)に事業譲渡のテーマについてコメントをお願いした。荒木先生からは、日独労働法協会の創設以来、当協会にご理解とご支援をいただいている。

 荒木先生のように、とくにドイツ労働法研究を主なご専門とはしていないが、当協会の会員として暖かいご支援をいただいている先生はほかにもいらっしゃるが、最近ではこのような会員は減っている。ドイツ労働法研究者だけでは当協会も先細りなので、できる限り多くの労働法に関心のある方に入会していただけないかと希望している。このシンポジウムがそのきっかけにもなればと思うのはやや欲張りであろうか。

 和田肇前会長のお言葉でもあるが、学術交流では、自分が外国に行くだけではなく、外国から日本に招聘することも重要である。招聘はあらゆる意味で自分が行くよりも大変であるが、今回、私は、日独労働法協会という活動の母体があることで、個人で招聘するよりも容易に進められる点が多いことに気づき、当協会の意義を改めて実感している。
 ドイツ人報告者の原稿の翻訳では、多くの会員にご協力いただくこととなった。また、熊本では、講演だけではなく、観光についても春田吉備彦先生にご尽力いただくこととなった。今回の来日がドイツの先生方にとって素晴らしい思い出になるとともに、ぜひ、多くの方にシンポジウムにお越しいただければと願っている。

[2025年8月15日]