デュッセルドルフとワイマール訪問記
細谷越史(香川大学教授)
新型コロナウィルスが猛威を振るい始めてから約2年半が経ち、2022年9月中旬にようやくドイツでの対面によるシンポジウムに参加する機会を与えられた。 <集合写真>
日本入国時の規制が緩和されたタイミングであったが、まだ閑散とする羽田空港を出発して、フランクフルト空港に到着し、その後、陸路でデュッセルドルフへと向かった。なお、ドイツではマスク着用義務は基本的に解除されていると聞いていたが、実際には飛行機や鉄道などではマスク着用が要求されていた。
まず、9月15日に「日本、ドイツそしてEUにおける労働法の現在」と題するシンポジウムがデュッセルドルフで行われ(開催場所:テイラー・ウェシング法律事務所)、約40名の法律家が出席された。
独日労働法協会の事務局長であるカルステン・ハーゼ弁護士らのご挨拶から始まり、ドイツ側からはミヒャエル・ピルス弁護士、ライ
ムント・ヴァルターマン教授、フランツ・ヨゼフ・デュベル元連邦労働裁判所判事、ロルフ・ヴァンク教授らが報告を行い、当協会からは榊原嘉明会員や橋本陽子・日独労働法協会事務局長らが報告を行った。なお、紙幅の関係などから全員のお名前を挙げることができないため、詳細については当協会HP掲載のプログラムを参照されたい。
<デュッセルドルフ・シンポジウムプログラム>
<ワイマール・シンポジウムプログラム>
本シンポジウムでは、緊張感と同時に時に和やかな雰囲気も感じられる中で、日独、欧州における労働法の今日的な課題をめぐり活発な議論が交わされた。独日労働法協会の創立25周年を記念する本シンポジウムが、おそらく欧州において日本と最もつながりの深いデュッセルドルフの地で行われたということが大変印象深く感じられ、また、これまで長年にわたり日独の労働法をめぐる学術交流にご尽力されてきた諸先生方に対する尊敬と感謝の念を強く抱いた。
これに続く9月17日には「古く不当なものを正す―社会的包摂をグローバルに発展させるための法」と題するシンポジウムがワイマールで実施された(開催場所:ゲーテ国立博物館)。本シンポジウムは、独日労働法協会会長でもあるフランツ・ヨゼフ・デュベル先生の75歳をお祝いするものであり、参加者は約90名にも上った。
本シンポジウムは、第1部「民主的法治国家のチャンスとリスク」と第2部「労働法の発展―国内、ヨーロッパ、世界」から構成された。労働法を取り扱った第2部では、ドイツ側からはクラウス・ベプラー元連邦労働裁判所判事、インケン・ガルナー連邦労働裁判所長官が、当協会からは和田肇・元日独労働法協会会長、高橋賢司・日独労働法協会会長が報告を行った。第1部、2部ともに非常に活発な議論や意見交換が行われた。
デュッセルドルフとワイマールの両シンポジウムでは参加者から良好なフィードバックが得られたと伺っており、日独の学術交流が久しぶりの対面方式のシンポジウムを通じてより一層深められたと感じられた。
翌日は、提供されたいくつかの文化プログラムの中から、ワイマール共和国博物館のガイド付き参観に加わった。
ワイマール共和国憲法の制定により高揚した民主主義が、その後ナチスにより否定されてしまったという歴史を持つワイマールの地で民主主義や法治国家の意義を再考し、また日独や欧州の労働法が抱える喫緊の諸課題を認識したうえで労働法の未来のあり方を模索する取り組みに参加することを通じて、コロナ禍で生じた閉塞状況を徐々に打開し、比較法研究を着実に前進させていこうとする新たなモチベーションを得られたことが今回のドイツ訪問の最大の成果となった。
(2022/09/29)