ドイツにおけるコロナ禍の行動制限と憲法裁判所判決
和田 肇(名古屋大学名誉教授)
ドイツではコロナ禍(COVID-19 Pademie)が2020年1月に始まり、その後何波かを経験したが、連邦首相と州首相の合意を前提に州ごとに対策を講じてきたために、足並みが揃わなかった。そこで第4波の拡大を前にそれを押さえ込むため、2021年4月22日に法改正(全国規模の流行状況における住民保護に関する第4次法:Viertes Gesetz zum Schutz der Bevölkerung bei einer epodemischen Lage nationaler Tragweite)が行われた。これによって規制権限を連邦政府に一任し、過料を伴う公共の場や家庭内での人の接触制限、学校や飲食店等の施設の閉鎖(ワクチン接種者(Geimpfte)と感染回復者(Genesene)以外の者について入場制限をする「2Gルール」)、夜間(22時から翌朝5時)の外出制限等の「非常ブレーキ」等が可能になった。これに対して学校閉鎖に反対する子と親、営業制限を受ける小売業者や飲食業者、興行制限を受ける文化団体、政党ではFDPなどから100を超える憲法異議の訴えが起こされた。
連邦憲法裁判所は2021年11月21日決定において、接触制限と外出制限について、次の理由から非常ブレーキ措置を合憲と判断し、憲法異議の訴えを却けている(Bundesverfassunng、Entscheidungen)。当該措置が多くの側面で基本権(人格の自由な発展の権利、家族形成権、他人との接触の自由等)侵害となる可能性があるため、基本法上の様々な要請を考慮しながら吟味することが求められるとし、「当該措置は総体として、最重要な公共の福祉の要請である生命と健康保護、そして機能的な保健システムに寄与するものであり」、「パンデミックが明らかに危険状況にある下では憲法と合致している」と判示する。また、同裁判所は同年11月19日決定により、学校閉鎖のためにオンライン授業を実施した措置についても、教育を受ける権利を侵害しないとして憲法異議の訴えを却けている(Bundesverfassunng、Entscheidungen)。
ところが、こうした判決以降も各地で行動制限についての違憲訴訟が提起されている。たとえば「2Gルール」を小売店に導入する行政命令(日常品以外の購入を禁止)について、ニーダーザクセン州高等行政裁判所(リューネブルク)は2021年12月16日決定で、このルールはコロナ禍を押さえ込むのに必然性がなく、また平等権に反するとして、雑貨店主の訴えを認め、同命令の執行停止を命じている(Niedersächsisches Landesjustizportal)。
その後ベルリンでの同様の行政命令に対して、百貨店カウフホフも同様の訴訟をベルリン行政裁判所に提起している。
情報提供に留めるが、ドイツではコロナ対策毎に丁寧に立法や法改正が行われ、これについて憲法的視点から議論が積み重ねられていること、つまり法治主義が生きていることを痛感する。
(2022/1/24)