今年は国際協同組合年!

田口 晶子(前ILO駐日代表)

乾杯のイラスト「生ビール」◇はじめに
 新年度で生活が変わった方も多いと思いますが、質問をひとつ。皆さまは、協同組合を利用していますか?労働者協同組合などが提供する介護や育児サービスはどうでしょうか。
 筆者は、日本で最初に誕生し、現在も大規模生活協同組合の1つであるコープこうべに子どもの頃からお世話になってきました。
 2025年は国連が定めた2回目の国際協同組合年(IYC2025、第1回目は2012年)です。筆者が日本代表を務めた国際労働機関(ILO)は、協同組合と密接な関係があり、近年は、さらに協同組合を含む社会的連帯経済(social solidarity economy、SSE)に焦点をあてています。
 本稿では、この分野のILOの活動や日本の協同組合運動に対する評価を中心に紹介し、最後に私事になりますが、筆者の近況にも少し触れさせていただきます。

1.国際機関(ILO等)と協同組合

◇協同組合の誕生
 労働運動と協同組合運動は、どちらも、イギリスで産業革命後、過酷な労働条件で働くことを余儀なくされ、生活に困窮した労働者が協力して自らの生活を守るために始めた活動です。
 ILOは、協同組合に関して明確な使命を有する唯一の国連機関で、憲章で協同組合の重要性を認め(*注)、創設年の1919年に国際協同組合同盟(ICA)と正式な関係を樹立し、1920年に事務局の中に協同組合部(Cooperatives Service、現在はCooperative Branch)を設置しました。ILOは、協同組合をとりわけ農村部において開発過程を支援するための理想的な機構とみなし、技術援助と情報共有を通じて協同組合の育成を推進し、政労使が果たしうる役割について助言してきました。
 初代ILO事務局長アルベール・トーマはICA執行委員でもあり、「ILO設立の礎となった平和条約は、ILOが労働条件だけでなく、『労働者の状態』にも関心を持つことを求めていて、この考えが民衆の間で最もよく理解されるのは、協同組合という形である。」という名言を残しています。
 ICAは、1922年に7月の第1土曜日を国際協同組合デーに定め、ILO事務局長も必ずメッセージを出し、世界各地でさまざまなイベントが行われます。1995年のICA設立100周年に際し、同日は国連により、「協同組合の国際デー」に認定されました。ICAには112ヵ国から318の協同組合が加盟しており、加盟組織の組合員の総数は10億人に及びます(2022年)。

◇協同組合に関する国際労働基準の採択
 ILOは、1966年に協同組合(発展途上にある国)勧告(第127号)を採択しました。この勧告は、協同組合の企業的な性質に重点を置かず、適用対象も限定的だったので、先進国にも範囲を広げた2002年の「協同組合の促進勧告」(第193号)に置き換えられました。
 新勧告は、協同組合に関する唯一の最新の国際的な政策枠組みで、協同組合を、「共同で所有され、かつ、民主的に管理される企業を通して、共通の経済的、社会的及び文化的ニーズ及び希望を満たすために自発的に結合された自主的な人々の団体」と定義しました。
 雇用創出、資源動員、投資創出、経済寄与における協同組合の重要性、協同組合が人々の経済・社会開発への参加を推進すること、グローバル化が協同組合に新しい圧力、問題、課題、機会をもたらしたことを認識し、協同組合を促進する措置を講じるよう加盟国に呼びかけています。労使団体と協同組合団体の役割、相互関係、国際協力に関する規定も含んでいます。

◇協同組合と開発協力
  ILOは、各国の政労使、協同組合運動およびSSEに関わるすべてのアクターと協力し、いろいろな開発協力プロジェクトを通じて、さまざまな訓練ツールやプログラムを開発・実施しています。能力開発に特に重点を置いていますが、これは、組織の受益者だけなく、女性、若者、強制避難民を含む不利な立場にあるグループに力を与え、それによって社会的包摂の拡大に貢献するためにも極めて重要です。

◇現代の課題に取り組む協同組合とILOの支援
 ILOの活動は、確立された協同組合モデルの支援に限られているわけではありません。ILO創設100周年記念「仕事の未来」報告書(2019年)では、仕事の世界に大きな変化をもたらす要因として、人口動態の変化、技術革新、グローバリゼーション、気候変動などをあげていますが、これらの課題に取り組んでいる協同組合、特に新たな形態の協同組合も数多く存在します。その中には、インフォーマル経済労働者のための革新的な課題解決をめざす協同組合、デジタル・プラットフォーム協同組合、コミュニティ主導の社会的ケア協同組合なども含まれます。
 ILO創設100周年記念宣言では、協同組合、SSEの機能を明記しましたが、ILOは引き続き2022年にSSEに関する決議を採択しています。
 さらに、2025年のILO総会の議題は協同組合やその他のSSE事業体に大いに関連があります。ひとつは、労働者をインフォーマル雇用からフォーマル雇用に移行させるアプローチで、協同組合は農業や介護部門から新興のデジタル・プラットフォームに至るまで、労働者を法的に承認し、労働条件を改善するための経路を提供してきました。二つ目はプラットフォーム経済における国際労働基準策定に向けての第1次討議で、ここでも協同組合モデルがとりあげられることが予定されています。
 そのほか、第2回世界社会開発サミット(11月、ドーハ)など、今後開催されるいくつかの国際会議でも協同組合について触れられることが期待されています。

◇ユネスコ無形文化遺産に登録された協同組合 提案国はドイツ
 国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)は、2016年11月、協同組合を「コミュニティづくりに貢献しているだけでなく、雇用や社会的排除への対策などさまざまな社会問題に取り組んでおり、文化の多様性や人類の創造性を助長する組織である」と評価し、「無形文化遺産」への登録を決定しました。これは、ドイツの提案によるものです。

2.日本の協同組合運動の評価と課題

 現代につながる日本の生協の歴史は大正時代に始まります。生協の誕生の中心となった人物がコープこうべを創業し、“生協の父”といわれる賀川豊彦です。1928年に来日したトーマILO事務局長(前述)は、神戸で賀川氏と親交を深め、帰国前にも再び賀川氏を訪ねました。
 公務員の労働基本権問題など、ILOと日本政府の見解が異なる分野が数多くある中で、日本の協同組合の活動については、ILOを始めとする国際機関は、SSEの価値観と原則を実践的に示していると高く評価しています。
 日本には、国際的な活動を行っている協同組合も多くみられます。
 一例をあげると、日本生協連は、ILOと協力し、「アフリカ協同組合リーダー研修」プログラムを2010年から2019年まで実施し、アフリカ16か国から43名の協同組合リーダーを受け入れ、その成果を「日本とアフリカ『協同組合間の協同』の軌跡:ILO・日本生協連アフリカ協同組合リーダー視察研修の10 年をふりかえる」にまとめました。発展途上国に対する支援を行っている企業は多数存在しますが、協同組合は、一方的な支援でなく、相互に学びあうことをめざしています。
 また、1つ1つのSSEの背後には、熱い思いとストーリーがあります。ILOは、「日本におけるSSEとディーセント・ワーク-12の事例」と題するさまざまなSSEのインタビューも刊行しました。
 ILOは「ろうきん」の地域における取り組みにも関心を持ち、他国への制度導入の可能性も含め、調査報告書を作成しています。
 一方で、国際機関は課題も指摘しています。日本の協同組合の法的枠組みが分断されており、重複する法制度や行政負担によって、イノベーションを妨げ、新しい協同組合モデルの確立を阻害する可能性があることをあげています。その他、金融支援メカニズムの強化や、セクターを超えた協力の推進なども提案しています。

◇おわりにかえて
 日本における協同組合員数は延べ1億835人となっていますが、伝統的なものから最新の形態のものまで含めて常勤の役職員数は52万人です。したがって、労働市場で果たしている役割は大きいとは言えませんが、今後労働政策を企画立案する際には、働き方の一形態として、配慮すべき対象と言えるでしょう。

 さて、約20年前に角田邦重先生からご要請をいただいた中央大学の兼任(非常勤)講師「国際労働問題」の講義も2024年度が最終年となりました。20人から30人の受講生に毎回課題を出し、それに対してコメントを書くのが、厚生労働省やILOでの本務退職後の楽しみの1つでした。
 ILO勤務中は英語に集中していたので、錆びついたドイツ語の学習を再開しました。私のドイツ語の先生の1人は、京都大学で日本文学を学んだあと、外交官になり、在日本ドイツ大使館レーバーアタッシェを経て駐日大使になられたVolker Stanzel氏です。現在は当時の生徒の会に入り、同氏の来日時には旧交を温めています。また、歴代の在日ドイツ大使館のレーバーアタッシェとも親しく意見交換をさせていただきました。
 また、大学への出向時やILO駐日事務所時代を始め、自分の研究テーマやそれぞれの組織に関わる多くの紹介記事を書いてきました。協同組合についても何回かとりあげました。
 これからは、所属している日本ILO協議会や日本労働ペンクラブで発信活動を続けていくつもりです。また、ドイツの関係では、ケルンアルムニ会及び日本ハイデルベルク会の理事をしています。どちらも会員獲得が理事の最重要課題ですので、関心のある方がいらっしゃればぜひお問い合わせください。

 今後ともよろしくご指導ください。               [2025/04/01]

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注:ILOは、使用者、労働者、農業者及び協同組合員の国際機関を含む承認された民間国際機関との望ましいと認める協議のための適当な取極をすることができる(ILO憲章)