週4日勤務制のパイロット・プロジェクト

和田 肇(名古屋大学名誉教授)

 アイスランド(2015年)、スペイン(2021年)、イギリス(2022年)等で既に実験が行われている週4日勤務制(週4日制、週休3日制)の実験が、ドイツでも本年2月5日から50社の参加で開始された。6ヶ月後に、ミュンスター大学の研究プロジェクトによりその成果が分析・評価されることになっている。このプロジェクトは、民間の経営コンサルタント会社の発案による(*1)。
 週4日制には、現在の週40時間5日制(1日8時間)を週40時間4日制(1日10時間)にするタイプと、週32時間4日制(1日8時間)にするタイプがある。また後者には、賃金の減額を伴わない(ドイツ語では賃金調整がある:mit Lohnausgleich)タイプと賃金減額を伴う(ohne Lohnausgleich)タイプがある。今回ドイツで実施されているのは、後者のうちの賃金減額を伴わないタイプ(100-80-100 Model)である。

 労働時間法(Arbeitszeitgesetz)3条では週日の労働時間を8時間とし、6ヵ月あるいは24週(調整期間)の平均で8時間以下となる場合には労働時間を10時間まで延長する(変形労働時間制)ことができる。週労働時間の上限は直接は定められていないが、日曜日休日原則の規定(同法9条。10条に例外)があるから、週労働時間の上限は48時間となる。しかし、ほとんどの労働協約で週労働時間は40時間以下に設定されている(*2)。また、ドイツでは既に1970年代に完全週休2日制が実現している。
 各事業所で労働時間制度を定める際には、労働協約の適用下にある場合にはその範囲内で、適用下にない場合には法律の限度内で、事業所委員会との共同決定で「休憩を含む日々の労働時間の開始及び終了並びに労働時間の各週日への配分」を決めることになる(事業所組織法87条1項2号)。
 以上の法的枠組みの中で定型的労働時間制や変形労働時間制を設定する。賃金調整については法律の縛りはない。

 日本でも、たとえばファーストリテイリングが2015年に、日本マイクロソフト社が2019年に、みずほファイナンシャルグループが2020年に同様の制度を導入するなど、かなりの企業で制度が普及している。さらにコロナ禍を経験しこうした制度導入が今後広まっていくと予想されている。導入の要因は、健康・安全や生産性の理由以外に、知的・創造的な仕事に適している、ワーク・ライフ・バランスに敵う、人手不足解消など多様である。労働時間を短縮している場合に、給与を減額するケースもあるが、多くは減額されないケースのようである。企業としても、労働時間を短縮した分、生産性の向上が期待でき、それが賃金調整を十分に可能にすると考えているようである。

 ドイツの経験の特徴であるが、一つに、他の先進事例と同様に雇用政策についての社会実験として実施されている。日本では各企業毎にアトランダムに導入されているため、社会の共有財産になりにくい面がある。雇用に関する社会実験について検証を行って実装化することは、ドイツで広く行われている。1980年代の金属産業における週35時間制の導入などが先例としてある。
 二つに、日本では週休3日制になるため賃金が減少し、その分、副業が増える現象が出ていることが指摘されている。複数事業所で勤務する場合も労働時間は通算されるから(労基法38条1項)、こうしたケースでは「形だけの週4日制」ということになる。ドイツではそうした現象は、少なくとも公式には登場していない(週末の副業としてのミニジョッブ(Minijob)はあるようであるが)。これまでの経験を見ても、ドイツでは概して時間選好・時間主権指向が強く、週4日制の背景にもその傾向が強く看取できる。
 WSI(経済社会学研究所)が2023年に行った調査では、フルタイム労働者の2%が既に実施、81%が週4日制に賛成、賛成の中で73%が賃金調整(賃金減額なし)を希望、8%が賃金調整なしを受け入れる、17%が反対と回答している(*3)。
 三つに、ドイツでは週4日制は生産性の向上をもたらすと考えられている。使用者団体の中では100-80-100 Model の有効性について疑問を呈するところもある。日本では労働生産性となると、個人の生産性に合わせた賃金制度(成果型賃金)について論じられるが、ドイツではそれとは異なるコンテクストで論じられている。(2024/06/26)

【*注】
*1 Tagesschau vom 1.2.2024, Gesünder und produktiver dank Viertagewoche?, Deutschlandfunk Kultur vom5.2.2024, Vier-Tage-Woche ein Zukunftsmodell?. なお、参加企業数が45とする報道もある。また、いくつかの企業では年当初から既に開始しており、いくつかの企業は31日から開始されている(https://t3n.de/news/4-tage-woche-deutschland-1605840/)。
*2 2022年の数値では、労働協約の週所定労働時間(フルタイム労働者)は38.2時間で、全労働者の実労働時間は平均で34,7時間、フルタイム平均40.4時間、パートタイム平均20.8時間となっている。
*3 WSI, Vier Tage sind vielen genug また、HDI 保険会社の2022年9月の調査では、賃金減額なし62.7%、賃金減額有り13.7%、反対16.8%、無回答6.9%となっている。賃金減額があっても賛成という意見は、産業別では、製造、IT関係、教育、建築などで高く、逆に保安・清掃、ケア労働、医療・保険、観光などで低くなっている。