【ご案内】日独労働法協会2025年国際シンポジウム 2025年10月10日(金)~10月12日(日)

日独労働法協会2025年国際シンポジウム(2025年10月10日(金)~10月12日(日))
参加費無料、使用言語:ドイツ語(日本語通訳あり)、英語

「変化する雇用社会の課題―日独労働法の共通点と相違点―」

日本におけるドイツ労働法との比較法研究には長い伝統がある。とくに日独労働法協会は、1998年の設立以来、姉妹団体である独日労働法協会と密接な交流を行い、すでに何度も国際シンポジウムを開催してきた。かかるシンポジウムでの議論は、文献研究からだけでは得られない、相互の法制度に対する理解と有益な示唆をもたらしてきた。
2025年のシンポジウムでは、改めて日独労働法の共通点と相違点について検討を行いたい。日本とドイツは、いずれも大陸法に属し、個別的労働法と集団的労働法から成る労働法の体系は、原則として比較可能である。さらに、両国とも雇用社会の変化に伴い、同様の課題に直面している。デジタル化、少子高齢化、労働者のメンタルヘルス問題および急速に変化する企業構造である。
もっとも、日独の法的な前提には相当の違いも存在する。例えば、日本にはプラットフォーム労働に関する法規制は存在しないが、EUでは、2024年にはプラットフォーム労働指令2024/2831号が成立し、非常に注目されている。事業移転(事業譲渡)における労働関係及び労働条件の保護も、日本では長年議論されているにもかかわらず、非常に不十分な規制しか存在しない。この分野に関するドイツの法的状況は日本でもよく知られているが、ドイツの判例における新たな展開は、このテーマについて改めて検討する契機となるであろう。事業移転に関連して、ドイツでは、事業所委員会の果たす役割が重要であるが、同様の制度化された従業員代表は日本には存在しない。
事業所年金法および賃金継続支給法も、日本法には相当する法律は存在しない。日本では、同様の法規制は不要であると考えられているといっても過言ではない。この相違点が何に起因するのかについて検討する余地があろう。
これに対して、近時、日独の法規制が接近しているテーマも存在する。合意解約については、詳細は異なるものの、日独の法規制はよく似ている。両国において、合意解約の撤回または取消は、従来は困難であったが、近時、労働者の利益がより考慮されるようになってきている。労働者の真の意思がより厳格に審査されるようになっている点は両国に共通の傾向であり、注目される。
労働時間に関する法規制も、日独では異なっている。日本では、使用者は、法律に基づいて時間外労働の割増賃金を労働者に支払う義務を負い、割増賃金をめぐる紛争は、労働事件における典型的な紛争である。これに対して、ドイツでは、時間外労働に対する手当については、法律の規制はなく、労働協約、事業所協定または個別労働契約における合意に委ねられていた。しかし、ドイツにおいても、EU司法裁判所および連邦労働裁判所が労働時間の把握義務を肯定して以来、時間外労働における賃金請求権の問題に注目が集まっている。この問題も、両国における議論状況の近接化を示す例であろう。
本シンポジウムでは、様々なテーマについて比較法的検討を行うことによって、両国の労働法に対する理解がより深まり、相互の法制度のさらなる発展に対する有意義な示唆が得られることであろう。

【第1日目】
2025年10月10日(金)学習院大学東2号館8階第1会議室
16:30~18:00
ハンス・ハーナウ(金井幸子訳)「労働時間の保護と賃金の保護―労働時間の把握義務は残業代訴訟の立証責任に影響を及ぼすのか?―」
懇親会

 

【第2日目】
2025年10月11日(土)学習院大学中央教育研究棟12階国際会議場
9:00~9:10 あいさつ(高橋賢司)

第1部 プラットフォーム労働-EU指令と労働者概念
司会:ハインリッヒ・メンクハウス
9:10~10:00
リューディガー・クラウゼ(後藤究訳)「プラットフォーム就労者の法的地位―EU指令2024/2831号の準則とドイツ法への国内実施―」
10:00~10:50
マルティン・フランツェン(井川志郎訳)「個人情報保護法とアルゴリズムの規制―EU一般データ保護規則、AI法およびプラットフォーム労働指令の関係―」
10:50~11:05 コメント(橋本陽子)
11:05~11:45 質疑

11:45~12:45 休憩

12:45~13:00 日独労働法協会総会

第2部 事業移転(事業譲渡)と事業所委員会
司会:和田肇
13:00~13:50
フランツ・ヨーゼフ・デュヴェル(佐々木達也訳)「EU法およびドイツ法に基づく事業移転と使用者の交替」
13:50~14:40
カーステン・ハーゼ(丸山亜子訳)「事業所変更における事業所委員会」
14:40~14:55 コメント(荒木尚志)
14:55~15:35 質疑

15:35~15:45 休憩

第3部 事業所の老齢保障
15:45~16:35
セバスチャン・ロロフ(皆川宏之訳)「ドイツにおける事業所の老齢保障制度」
16:35~17:00 質疑

懇親会

 

【第3日目】
2025年10月12日(日)熊本学園大学図書館地下AVホール
司会:春田吉備彦(熊本学園大学)
14:00~14:10 あいさつ
14:10~15:10
ベッティーナ・ブーバッハ(橋本陽子訳)「合意解約とフェアな交渉の原則」
15:10~16:10
リヒャルト・フィーツェ(岡本舞子訳)「第1審裁判所における賃金継続支給の法実務」
16:10~17:00 質疑

 

【講演者等一覧】

ブルクハルト・べムケ(Burkhard Boemke)ライプチヒ大学教授
ベッティーナ・ブーバッハ(Bettina Bubach)連邦労働裁判所裁判官
カーステン・ハーゼ(Karsten Haase)弁護士、独日労働法協会事務局長
二コラス・ショイヤー(Nikolas Scheuer)通訳
ハインリッヒ・メンクハウス(Heinrich Menkhaus)明治大学教授
ハンス・ハーナウ(Hans Hanau)ハンブルグ連邦軍大学教授
フランツ・ヨーゼフ・デュヴェル(Franz Josef Düwell)元連邦労働裁判所裁判長裁判官、独日労働法協会会長
マルティン・フランツェン(Martin Franzen)ミュンヘン大学教授
セバスチャン・ロロフ(Sebastian Roloff)連邦労働裁判所裁判官
リヒャルト・フィーツェ(Richard Vietze)ベルリン労働裁判所裁判官
リューディガー・クラウゼ(Rüdiger Krause)ゲッティンゲン大学教授
荒木尚志・中央労働委員会会長
井川志郎・中央大学教授
岡本舞子・北九州大学准教授
金井幸子・愛知大学准教授
後藤究・成城大学准教授
佐々木達也・名古屋学院大学准教授
高橋賢司・立正大学教授、日独労働法協会会長
橋本陽子・学習院大学教授、日独労働法協会事務局長
春田吉備彦・熊本学園大学教授
丸山亜子・大阪経済大学教授
皆川宏之・千葉大学教授
和田肇・名古屋大学名誉教授

問い合わせ先:橋本陽子(20000876@gakushuin.ac.jp)